【ゴルフの新常識】「平均パット数」はもう古い?パットの本当の価値を測る「ストロークス・ゲインド」とは?

JLPGAの公式スタッツを見ると、トッププレーヤーが驚異的な「平均パット数1.7台」という数字を叩き出しています。しかし、この数字だけを追いかけると、パッティングパフォーマンスの本当の姿を見誤ってしまう可能性があります。

なぜなら、その背後には、同じ「1打」でも、全く異なる価値を持つパットが存在するからです。

平均パット数が抱える「平均値の罠」

約6mの難しいバーディーパットを1打で沈めることと、約1mの短いパットを1打で決めること。スコアカード上ではどちらも「1打」ですが、そのプレーの価値は全く異なります。

「平均パット数」は、この価値の違いを無視して、すべてのパットを同じように評価してしまいます。これがこの指標の持つ最大の弱点です。

例えば、あるプロがアプローチショットをピンのすぐそばに寄せ続けたとします。そうなれば、残るのは簡単なパットばかりなので、平均パット数は当然良くなります。しかし、これはアプローチの技術が優れていた結果であり、パッティングそのものが特別に優れていたわけではありません。

この矛盾を象徴するのが、マーク・ブローディ教授による衝撃的なケーススタディです。

  • アンヘル・カブレラ選手: あるラウンドでパット数は26回と非常に少なかったものの、ストロークス・ゲインドは-2.8打と評価されました。彼のアプローチが良すぎて、最初のパットが平均9.6フィート(約2.9m)と短かったにもかかわらず、その短い距離からのパッティングがツアー平均より悪かったためです。
  • イアン・ポールター選手: 同じ大会でパット数は32回と多かったものの、ストロークス・ゲインドは+2.3打という素晴らしい数字でした。彼のアプローチが悪く、最初のパットが平均32フィート(約9.7m)と長かったものの、その長い距離から安定して2パットで収める能力が高く評価されたからです。

このように、平均パット数だけでは、選手の真の強みや弱点を見抜くことができません。

パッティング分析の革命「ストロークス・ゲインド」

そこで登場するのが、パットの本当の価値を測るための指標「ストロークス・ゲインド:パッティング(SGP)」です。

これは「ツアープロの平均的なパフォーマンスと比較して、自分のパットがどれだけスコアに貢献したか(あるいは足を引っ張ったか)」を数値化するものです。

具体的には、ある距離からのパットの「ツアー平均打数」を基準に計算します。

(ツアー平均打数) – (自分の打数) = ストロークス・ゲインド

例えば、20フィート(約6m)からのツアー平均打数が「1.86打」だったとします。もしこのパットを1打で沈めれば、

1.86 – 1 = +0.86打

となり、この1打でスコアを**0.86打分「稼いだ」**と評価されます。

この指標を用いることで、単なる「入った・外れた」という結果だけでなく、一つ一つのパットの**「質」**を客観的に評価できます。

データが示すパッティングの真実

ストロークス・ゲインドのデータをさらに深く分析すると、パッティングにおける真の課題が見えてきます。

1. 距離別の分析が不可欠

プロの分析では、パットの距離を以下の4つの「バケット(区分)」に分けて評価します。

  • バケット1(0-1.5m): いわゆる「お先に」の距離。確実性が求められる。
  • バケット2(1.8-4.5m): バーディーチャンスの距離。ここでスコアの差が生まれる。
  • バケット3(4.8-9m): ラグゾーン①。カップインより3パット回避が重要。
  • バケット4(9.1m以上): ラグゾーン②。スピードコントロールの腕が試される。

例えば、「総合SGPは平均レベルだけど、バーディーチャンス圏ではSGPが+0.7と高い」といった選手のデータが見えてくれば、コーチは「長いパットの距離感」に練習時間を集中的に割り当てる、といった効率的な指導が可能になります。

2. ラグパッティング(距離感)が最も重要

分析によると、総合的なSGPと最も強い相関関係にあるのは「全2パットの平均距離」であることがわかっています。

これは、エリートレベルのパッティングは、長いパットを無理に入れてスコアを稼ぐことよりも、3パットや簡単なミスパットをしないことによって、より強く定義されることを意味します。40フィート(約12m)のパットを確実に2フィート(約60cm)以内に寄せる選手は、長いパットは入るものの、頻繁に3パットを犯す選手よりも、高いストロークス・ゲインドを記録します。

ゴルフ上達への道筋

ストロークス・ゲインドは、選手を過度なプレッシャーから解放し、より賢い練習を可能にします。

「25フィート(約7.6m)からのツアー平均成功率は10%未満」といった客観的な確率を知ることで、選手は「入らなくても仕方ない」と割り切ることができ、過剰な期待から解放されます。そして、目の前の一打のプロセスに集中できるようになります。

従来の「平均パット数」から脱却し、ストロークス・ゲインドに基づいた多角的なデータ分析を行うことは、練習効率を飛躍的に高め、選手が自身の潜在能力を最大限に引き出すための強力な武器となるでしょう。

タイトルとURLをコピーしました